韓国画家 キム・ヒョンジョン ARTIST Hyunjung KIM

ウェディング21 | Artist Interview | 21世紀の風俗画を描く | 韓国画家キム・ヒョンジョンの視線

媒体 ウェディング21 区分 雑誌・定期刊行物 掲載日 2023.03.01 記者/番組 パク・ミギョン(エディター、フリーランス)/キム・ボハ(フォトグラファー、ザ・サードマインド) 管理コード MI219

ウェディング誌『ウェディング21』2023年3月号の「Artist Interview」コーナー(271~274ページ)に掲載されたキム・ヒョンジョン作家のインタビューです。「21世紀の風俗画を描く――韓国画家キム・ヒョンジョンの視線」という題で、「Naesoong」連作に込められた「視線」と「通念」という話題、結婚をテーマにした「卵1パック、結婚する年齢」連作とソーシャル・ドローイングという制作方法、作家個人の結婚観と今後の活動計画を一問一答で取り上げました。

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ARTIST INTERVIEW

21世紀の風俗画を描く

韓国画家キム・ヒョンジョンの視線

韓国画界の若き新鋭という呼び名とともに、韓国画のアイドルと呼ばれる韓国画家キム・ヒョンジョン。視線と通念についての告白的な自画像である「Naesoong(ネスン——本心を隠して取り繕う態度を指す韓国語)シリーズ」で作品活動を行っています。それを貫くテーマは「視線」で、作家は自ら作品の主人公となり、通念からの自由を志向します。作家の視線がとどまる世界へとご招待します。

エディター:パク・ミギョン(フリーランス)/フォトグラファー:キム・ボハ(ザ・サードマインド)/ヘア・メイク:パク・スヨン、チョン・ミヨン(ラ・ビューティコア)

キム・ヒョンジョン作家の〈Naesoong物語〉を初めて見た瞬間が、今も鮮明です。洗練された色彩、円熟した筆力、直截なメッセージ、東西の技法が一つに混ざり合った破格さが目を引きました。韓服を着て21世紀を生きる自由奔放な主人公・Naesoongの女性の日常を収めた繊細な描写に、見るほどに魅了され、高麗時代の線描仏画を思わせる主人公の顔と韓服の細やかな筆致に感嘆して、韓国画に関心が芽生えもしました。作家は作品の中のもう一人の自分にユーモラスに語りかける方法で通念を溶かし込み、人々が人生の重さを少しでも下ろして笑えるようにしてくれました。その原型は、私たちの先祖である風俗画家たちの諧謔と風刺ではないかと思われます。

作家の告白的な自画像である〈Naesoong物語〉は、高尚で秘めやかな韓服を着て生活する女性をとらえます。人物を裸で表現したうえで、西洋のコラージュと東洋の水墨淡彩の技法によって独特の対比を与えました。チョゴリは自ら染めた韓紙を貼って韓服のさらりとした質感を生かし、スカートは墨で半透明に描いて体の線が透けて見えるようにし、「その中がすっかり見透かされている」というメッセージを込めています。韓服は、視線から作家を守る鎧でもあります。

Naesoongに託して21世紀の風俗画を描く韓国画家キム・ヒョンジョン。ここからは、作家の長年の話題である「Naesoong」と、それを包み込む「視線」についての話を出発点に、インスピレーションを与えてくれるもの、結婚をテーマにした作品、結婚観、活動計画と夢についての話を交わしていきます。以下は作家との一問一答です。

2023年、韓国画家キム・ヒョンジョンの自画像をハッシュタグで表すとすれば、何になるでしょうか。

#日常 #視線 #通念 #私とあなたの物語 #私たち #告白 #アイロニー #Naesoong

どれも「Naesoongシリーズ」と緊密につながったタグですね。画家キム・ヒョンジョンにとって「Naesoong」はどんな意味を持ちますか。

私は、他人の視線や評価のせいで日常的な考えや行動を自由に決められない、「視線」に敏感な人間でした。他人の「視線」ばかりを追っていたために薄れてしまった自分の自我を探すため、そして揺らがずに重心を保つため、「私はどんな人間なのか」あるいは「どんな人間になるべきなのか」と自問する時間として〈Naesoong物語〉の制作を始めました。その後、視線と通念の問題について考えながら、自分の自画像である「Naesoong」をシリーズとして制作しています。視線と通念から逸脱する自由を志向しながら、自分の告白的な自画像のような絵を描いたものが、今の〈Naesoong物語〉です。

私はNaesoongを一種の嘘だと思っています。内心とは違うふるまいをする嘘、誰かによく見られたい、あるいは他人の視線が気になるためにつく嘘です。ヘーゲルは、人々が認められようとする努力を「承認闘争」と表現しましたが、私はNaesoongが承認闘争を目的として起こる、ほとんどすべての人に共通する本能的で普遍的な現象だと思っています。だからこそNaesoongは、必ずしも憎めない嘘だと感じられるのです。

実のところ、全体を貫く言葉は「視線」です。「Naesoong」という言葉を選んだのは、作品を見てクスッと笑っていただけたらと思ったからです。またNaesoongは、私たちだけの感性ではないかとも思います。韓国は儒教文化を基盤としているので、心をそのまま表現できないでしょう。海外で展示をする際にNaesoongを翻訳しなければならなかったのですが、どの国でも完璧な言葉は見つかりませんでした。

2013年の〈Naesoong物語〉初個展以来、今に至るまで「Naesoong」が話題の軸ですが、その間、この観点に変化はありませんでしたか。

〈Naesoongシリーズ〉をはじめ、私の作品は自分の姿を描いたものです。高尚な韓服を着た若い女性の高尚でない日常を、風刺と諧謔を込めてお見せしながら、「私もこうなのですが、もしかしてあなたもそうですか」という話をしたかったんです。さらに「こんな姿を愛すべきではないでしょうか。私たちはそうせざるをえない存在なのだから」という共感のメッセージを投げかけることで、社会を愉快にほどきたかったのです。この息苦しい暮らしのなかで、私の絵を見るときくらいは「まあ!おかしい、大胆ね」と言ってくださるなら、私にとってこれ以上幸せなことはないでしょう。このNaesoongに対する私なりの価値観であり観点は、以前と変わらないと思います。ただ、作品を表現する部分については多少の変化があります。

作品を表現する新しい試みとは何でしょうか。

一般には韓国画の材料を使って制作を進めますが、油彩や3Dプリンティング、ペーパーカッティングアート、iPadドローイング、映像、インスタレーションなど、多様な材料と技法での制作も試みています。さらに非対面の時代に合わせて、YouTubeに作品の制作過程を上げています。さまざまな活動を通じて、新しい領域を自分の色に磨き上げられる韓国画家として記憶されたいです。有名な画家たちは、一度見れば刻み込まれる色彩や線の特徴を持っています。ゴッホ、ゴーギャン、ピカソなどがそうですし、韓国画家では金弘道(キム・ホンド)、申潤福(シン・ユンボク)をはじめ、金基昶(キム・ギチャン)、朴寿根(パク・スグン)、李仲燮(イ・ジュンソプ)、千鏡子(チョン・ギョンジャ)などがそうです。みな自分だけの明確な画風を持って作品世界を繰り広げてきました。私もそういう画家になりたいです。誰が見ても「ああ、キム・ヒョンジョンの絵だね」という言葉が出るなら、それだけでうれしく楽しいことだと思います。

すでにキム・ヒョンジョン作家ならではの画風があり、水準の高い表現力と細やかな美感から、作家の血・汗・涙が感じられます。制作量も多いのですが、その無数のインスピレーションはどこから来るのでしょうか。

初期に制作していたころは、アイデアが湧き出ていました。手の速度がアイデアに追いつかないほどでしたから。ところがある日、画板がとても大きく見えて、途方に暮れる瞬間が来たんです。そのときから本当に努力しました。本ももっとたくさん読み、研究しました。今はニュースもよく見ますし、展示よりも音楽、舞踊、演劇など他分野の文化に多く触れています。できるだけ多く見て考えることが大切です。自然に親しみ、瞑想や半身浴をするときによいアイデアが浮かびます。結果として、アイデアは日常生活をひねって見る形で出てくるようです。

そうして努力し勉強していると、日常の一瞬一瞬からインスピレーションを得ます。たとえば〈闘魂〉は、食事を抜いて制作していて倒れそうだと思った瞬間に、戦闘的にハンバーガーを食べていた場面から題材を得ました。お腹が空いていても絵を描いている途中だったので、手に油を付けないようにストローでフライドポテトをつまんで食べる姿を表現しました。このように日常からインスピレーションを得て制作を進めます。日常の姿を表現するので、状況やアイテムはきわめて現代的ですが、表現技法と材料は伝統を守っています。東洋画の伝統的な美の要素を生かしながら、同時代において気軽に享受でき、共感される制作をしたかったのです。

すべての作品をご紹介できないのが残念ですが、結婚をテーマにした〈卵1パック、結婚する年齢〉の制作はぜひご紹介したいです。

〈卵1パック、結婚する年齢〉展を準備し計画するなかで、ソーシャル・ドローイングによって人々からアンケートを集めました。「ソーシャル・ドローイング」とは、オンラインの集団知性を活用して作品を制作する方法で、私が新しく作った言葉です。お便りを受け取ってラジオを進行するように、ソーシャルメディアを通じてエピソードやアイデアを聞き、作品を構想するのです。作品を進める過程を共有し、仕上げる過程、そして解釈までを積極的に対話し反映させながら作品を完成させます。そのなかから面白い例をいくつかご紹介します。△孫の手がいらない。△他の人が「結婚はいつするの」と聞いてこない。ただし結婚すると「子どもはいつ産むの」と聞いてくる。△家事が2倍に増える。△家族向けの通信料金のセット割引ができる。ただし通信料金は自分が払い、自分がお金を稼いでいるのに、お小遣いをもらう。△いつでも身近にいられて、一生一緒にいる友ができる。ただし、ときにはつねに一緒にいなければならない。そして長いあいだ一人の友だけに会うことになる。△生活に安定ができる。ただし束縛される。△家に帰れば自分を待っている人がいる。ただし結婚すると後悔する。とはいえ、しなければもっと後悔する。

思ったより人々が結婚を肯定的に語っていて驚きました。長所がそのまま短所になる部分が、私の作品と対になっているのが興味深かったです。

〈卵1パック、結婚する年齢〉には作家の結婚観も込められているはずですが、その結婚観が気になります。

現代を生きる女性のストレスと姿を表現したのが〈卵1パック、結婚する年齢〉です。やはり女性は結婚や育児によるキャリアの断絶、あるいは女性性について多方面で悩みが多いので、その姿を作品として表現しました。「年齢になったから結婚しなければならない」という社会的通念があり、20代後半から結婚の「時」が来たと言われるのが不思議だったんです。ふだんは実際に経験したことだけを制作してきたのですが、まだ未婚なので結婚について描くのは容易ではありませんでした。最近は結婚への関心が高まってきたので、考えながら作品を構想しています。私は結婚を、二人だけの家庭ではなく、それぞれ異なる家族どうしの出会いだと思っています。ただ、結婚することで女性に生じるキャリアの断絶は、悩ましく心配な部分です。また結婚は、安定感を与えながらも自由がなくなること、そして愛する家族ができるけれど自分の生活がなくなることだと考えています。

アートフェアで東洋画の比重はわずか3パーセントだとおっしゃっていましたが、結婚文化も同じように思えます。韓国の結婚文化についてどう考えますか。

最近は「名画パロディー」「結婚」「韓服」という三つのキーワードで韓国の文化を表現する制作を進めています。

作品のなかの〈結婚:考える予備の花嫁〉は、〈考える人〉(オーギュスト・ロダン)の作品をパロディーにしました。手に持っている紙は四柱単子です。婚約したのち、新郎の家から新婦の家へ、新郎の四柱である生年・月・日・時の四つの干支を書いて送る「簡紙」と呼ばれるものです。恋愛結婚が主流の現在とは異なり、仲人を通じて結婚していた朝鮮時代には、互いに付き合って性格を把握するのが難しいので、男女の四柱を見て相性を判断しました。このように時代によって結婚文化は変わっていきます。

もう一つの作品は〈結婚:ハムが届く日〉です。ハムを担いで笛を吹いている姿です。婚礼の過程で、新郎が新婦の家に婚書紙と結納品を入れて送る箱を「ハム」と呼びます。結婚が成立してうれしく、ありがたいという意味が込められています。昔は使用人や人を雇って送っていたのに対し、最近は新郎の友人や新郎に近い親族が直接行くそうです。それさえ次第に姿を消しているというので、作品としてぜひ残しておきたかったのです。最近は主礼のない結婚式も多く行われていて、型にはまらない韓国ならではの個性を探していく時点にあるように思います。

韓国の伝統文化が消えていく現実は残念ですが、芸術家がそれを作品として残せば、それが後世にとって温故知新の対象になるでしょう。キム・ヒョンジョン作家が韓国画に対する大衆の関心を引き出し、敷居を下げてくださったように。作品活動を通じて究極的に追求するものは何でしょうか。

韓国画、東洋画をやる者として、さらに力を尽くして韓国画の世界化を導きたいです。まず自分の作品と活動を通じて、より多くの方が韓国画と韓国の伝統文化に関心と面白さを感じてくださったら本当にうれしいです。また一方では、私たちの水墨画と韓服、韓紙が与える独特の美しさを世界の舞台に堂々と差し出して認められたいです。そのためにはまず、多くの人のかゆいところをかいてあげる「共感」に基づいた作品活動をし、また自分の作品を支える勉強にも励むつもりです。どんな題材を描くかは、ずっと開いたままにしています。

制作についての私の目指す地点を申し上げるなら、頭で描く絵ではなく、胸で描く制作をしたいです。これは率直な制作を意味します。とても長いあいだ制作を続けながら、より率直で、胸で伝えられる制作をする「境地」に至ることが、画家としての究極的な夢です。そして、一つの時代のなかで生きて呼吸する美術の制作をしたいです。昔の絵を見るとき、その時代像を把握したうえで絵を読まなければ、画家の意図をきちんと把握できないように、私は時代像をよく反映する、そして同時代の人々と絵を通じて多くの感情や考えを共有できる制作をしたいです。制作のあと、観客と対話するときこそ、制作が完成する瞬間だと思っています。

2016年にニューヨークのメトロポリタン美術館で韓国人最年少の個展を開くなど、韓国文化を世界に知らせる活動をなさっていますが、今後の計画や夢は何でしょうか。

現代を生きる物語を描く画家として、韓国画の魅力と美しさを大衆の前に広く知らせる「文化伝道師」になりたいです。昨年12月には米国ワシントンD.C.の連邦議会で招待展を開き、そのために韓服を着てキムジャン(キムチの漬け込み)をする姿を韓国画で表現しました。展示には米国連邦議会の上下両院の議員が出席し、彼らと私の制作だけでなく、韓国文化の魅力についても語りました。韓国文化を知らせる講演を構成し、実施が可能かどうかについても話し合い、これを契機に米国の大学で私の絵を紹介し、韓国文化について伝える巡回特別講義を行う予定です。K-Artと韓国画を世界に広く知らせられるよう、作品に打ち込み、積極的な活動をする計画です。より良い作家になるために努力できるよう、多くの関心と応援をお願いいたします。

profile

韓国画家キム・ヒョンジョン

韓国画家キム・ヒョンジョンは、ソウル大学の東洋画科と経営学科を経て、同大学院で博士課程を修了しました。2013年の展示〈Naesoong物語〉は出品作13点が2日で完売して話題を集め、2016年の個展〈Naesoong遊園地〉は6万7402人が来場して国内最多の来場者を記録し、同年にはニューヨークのメトロポリタン美術館で韓国人最年少の個展を開催しました。コカ・コーラ、ウリカード、現代自動車、ロッテ、新世界、教保などの企業とアートコラボレーションを行いました。現在はソウル市の広報大使と希望の橋の広報大使として活動中です。