Branding in Asia | 韓国画家キム・ヒョンジョンが語る自身の作品、クリエイティブの潮流、そしてブランドとの協業
Branding in Asiaが韓国画家キム・ヒョンジョンと行ったインタビューで、「Naesoongの女性」シリーズの創作プロセスや、コカ・コーラ、サムスンなどブランドとの協業経験を取り上げました。第4次産業革命時代のアートの潮流についての見解も併せて紹介しています。
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韓国の画家キム・ヒョンジョンは、急速に変貌する韓国社会において女性が伝統的にどう見られてきたかという枠線の外側を描くことで、韓国の美術界に自らの足跡を残してきました。
絵の具と紙を組み合わせた彼女の作品は、本人が「Naesoong(ネスン——本心を隠して取り繕う態度を指す韓国語)の女性」と呼ぶ、現在も続く肖像シリーズです。これは、外見上の伝統的なふるまいが必ずしも内面のいたずらっぽい性格を反映していない、という矛盾した状態を表す俗語的な言い回しです。
彼女の生き生きとした主人公「Naesoongの女性」は、しばしば下の裸身のシルエットが透けて見える伝統衣装の韓服をまとい、典型的な規範からはみ出すふるまいを楽しげに繰り広げます。
スクーターで街を疾走したり、ジャンクフードをむさぼり食ったり、作家が主人公を置くシチュエーションは実に多彩です。
この才能ある作家の作品は、サムスン、ペリエ、コカ・コーラといったブランドの注目も集めてきました。コカ・コーラは五輪キャンペーンを彼女に依頼し、その中には、今年初めの平昌冬季五輪で国際メディアの人気者となった韓国女子カーリング代表チームへのオマージュも含まれていました。
Branding in Asiaは先日、キム・ヒョンジョンに自身の作品、ブランドとの仕事などについて話を聞きました。
ご自身の創作プロセスと、作品の着想源についてお聞かせいただけますか。
私の作品はすべて、日記を書くように自分の内面をのぞき込みながら自画像を描くという形に落ち着きます。そのため、日常生活のあらゆる側面が着想の源になります。
とはいえ、人生のすべてが作品の題材になるわけではありません。一貫しない、あるいは矛盾した結果をもたらす出来事をとらえ、メッセージそのものを機知をもって表現できるようにすることが重要です。
最近はラジオで聞いた話をもとに描いたり、ネットユーザーの「集団知性」を使った「ソーシャル・ドローイング」を試したりもしています。
プロジェクトの進め方には、少し独特なところがあります。
1. まず、題材に関するすべてを直接体験してからでないと、実際に描き始めることはできません。その体験の最中に感じたリアルタイムの感情を、プロジェクトの構想段階に取り込みます。
2. 次に、意図した作品を最もよく表現できる、興味深い動きと構図で全体のイメージを組み立てます。続いて構図を2回撮影します。まず人物のシルエットを撮り、その後、韓服(韓国の伝統衣装)を着た人物を撮ります。
3. 韓紙(韓国の伝統紙)の上にスケッチします。
4. 人物のヌードスケッチを描きます。
5. 墨で伝統衣装を描きます。
6. 彩色します。
7. 色を付けた韓紙を使って、上衣のコラージュを作ります。
韓国での五輪期間中に手がけたコカ・コーラのキャンペーンは、海外メディアでも高く評価されました。あの関係はどのように生まれたのですか。
近年、アート・コラボレーションが世間の注目を集めています。私もその波に乗って、アート・コラボレーションのプロジェクトを手がけてきました。2018年平昌冬季五輪に向けてアートマーケティング戦略を企画していたコカ・コーラから、韓国の伝統衣装を着たNaesoongの女性が冬季スポーツに参加する、という提案がありました。
交渉と契約を経て、私のプロジェクトはカーリング、ショートトラック、ボブスレーの競技を扱うことになりました。テーマは、Naesoongの女性がコカ・コーラを楽しみながら、冬季五輪という世界規模の祝祭に参加するというものでした。
ほかのプロジェクトと同様、コカ・コーラのプロジェクトも準備の過程で数えきれないほどの議論と検討を重ねました。その結果、最終的に素晴らしい作品が生まれました。
いくつものブランドと仕事をされています。アーティストの視点から見て、自身の個人作品とはアプローチがどう違うのでしょうか。
私の夢は、アートと日常がもっと深く溶け合った社会です。
ギャラリーの外でアートを楽しめる環境をつくりたいという自分の意図に集中するうえで、ブランドと協業してパブリックメディアで作品を展示するというマーケティング戦略は、とても魅力的なものでした。
芸術的な観点から言えば、自分のプロジェクトとブランドとの協業の最大の違いは、自分自身のニーズよりも、企業側のニーズを十分に作品へ反映させなければならない点です。
もちろん自分の色を失いたくはありませんから、(ブランドと)合意に至るまでに多くの調整が必要になります。しかしその過程を通じて、新鮮なアイデアを得たり、新しい技法を学んだり、新たな経験によって完成度を高めたりすることができます。
たとえば、韓国馬事会と一緒に仕事をしたことがあります。
個人的には、たとえ描きたいと思っても馬を描くのは難しいのです。直接観察し体験しなければ、正しい表情をとらえるのは容易ではありません。韓国馬事会は私に乗馬を体験させ、心ゆくまで馬を観察させてくれたので、プロジェクトに集中することができました。
広告に純粋美術が使われる例はまれです。もっと多くのブランドが広告キャンペーンでこの手法を取り入れるべきだと思いますか。
企業の関心は、自社の製品が消費者に訴求することにあります。市場にあふれる日々の広告は、より攻撃的なマーケティング戦略、より人気のあるモデル、より強いイメージへと傾いています。
しかし消費者が賢くなるにつれ、刺激的な広告に簡単に心を奪われることはなくなりました。一発屋のような広告よりも、自分の心に響く広告を好むのです。
アート・コラボレーションの観点から例を挙げれば、有名な映画がデジタル化されたり、広告制作に引用されたりしてきました。この手法は、使われた映画をよく知る人々の消費者意識に働きかけることを狙ったものです。同じ観点から見れば、アート・コラボレーションはそうした戦略が一段進んだ事例だと言えます。
韓国では「アートシューマー(artsumer)」という言葉が流行語になり、アート・コラボレーションもますます広がっています。
私たちのチームがブランドと協業しているプロジェクトは、魅力的なイメージを使って製品の長所を最も効果的に示すものとして生まれ変わっています。
アート・コラボレーションが広まるにつれ、より多くのアーティストに大きな機会が訪れると期待しています。
韓国のクリエイティブシーンで、好きな潮流は何でしょうか。
私がソーシャルメディアの場で活動を続けている理由は、幅広い人々と関わることで、常に新しい情報や技術を知ることができるからです。
誰もが第4次産業革命について語っています。
それは、人工知能によって自動化と接続性が最大化される産業環境の転換を意味します。
それに伴い、AI、AR、VR、3D、4Dといった新技術が、第4次産業革命を取り込もうと市場にあふれ出しています。
第4次産業革命の時代にあって、アートの分野も例外ではありません。
また、グーグルのAI画家「ディープドリーム(Deep Dream)」が描いた絵が1億ウォンで売れましたし、AIプロジェクト「ネクスト・レンブラント(Next Rembrandt)」は、模倣によって原作の独特な画風、色彩、油彩の質感を再現しました。すでに亡くなった作家の画風を再現することが可能になったのです。
変わりゆく時代を無視するのではなく、歩調を合わせるだけでなく一歩先を行き、そうした技術を使って面白い作品をつくろうと試みることこそふさわしいと私は考えています。それは新しい領域を切り開く機会になるかもしれません。ナム・ジュン・パイクのビデオアートに近いものだと思います。
デジタル化した古い絵画を展示するのはとても興味深い体験でしたし、偶然の機会にNaesoongの女性を3Dプリントで制作する機会にも恵まれ、それも新鮮でとても面白い経験でした。新しいことを試して学ぶとき、すべてが面白くなります。
ですから、変化と新しいものへの適応が瞬時に起こる韓国に生まれたことを幸運に思っています。韓国のクリエイティブ分野はさまざまな形で前進していくでしょうし、私はその変化をできるだけ早く受け入れ、適応していきたいと思います。
好きではない潮流はありますか。
先ほども申し上げたように、新しく異なる経験に開かれていなければならないと考えています。真のアーティストなら、そうした心構えを持つべきではないでしょうか。
いま流行しているクリエイティブ分野のどれについても、抵抗したり嫌ったりする気持ちはありません。
これまで手がけてきた作品の中で、最も誇りに思っているものは何でしょうか。
ひとつのプロジェクトに半年ほどかけていますので、そのどれもが誇りです。
人が子どもに名前を付けるように、私は自分の作品に名前を付けています。
ですから一点を選ぶのは難しいのですが、初期の作品や、完成までに多くの時間を要した作品には特に愛着があります。たとえば〈Naesoong:あら、ラーメン〉は、Naesoongをめぐる物語を一般の方々と語り合うことができたプロジェクトでした。
そして〈Naesoong:私を動かすあなた〉は、海外で興味深い反響を得たプロジェクトで、「マックデリバリー」という名前でより広く知られました。
シンデレラをモチーフにしながら、結婚によって身分の上昇を夢見たシンデレラを皮肉った物語である〈Naesoong:大きな魚〉も、お気に入りの一点です。
彼女の作品はこちらでさらに多くご覧いただけます:www.kimhyunjung.kr